──時が来た、と少女は呟いた。
 薄気味悪く湿気が漂い、黴びた臭いのするこの中で、少女は時が訪れるのを感じ取っていた。
 ──またやってくる。
 それはたかが百年前に経験した出来事だ。
 いや、それもまた違う。百年前にしか経験してこなかった物言いは誤解と語弊を生む。正確には、何度目かなどもう記憶にも残っていないが、幾重もの戦をしてきたのだ。その魂は戦により散り、その魂は戦によって閃光の如く輝いた。
 ああ、雨が降る。
 降りもしない、星が綺麗に瞬く空を見上げながら、少女は悲しい瞳で宇宙より落ちる雨を握ろうと、右手を伸ばす。
 だが届かない。全ては幻想であり、幻想ではない。
 神々の瞬きのような宇宙の雨。
 この身に降り注ぎ、濡らしては身体の底へと沈みゆく。
 濡らしたその雫をそっと指先で拾い上げる。
 ただの雫。人には見えぬ雫の名は、罪と罰。
 故に戦わねばならぬと、かつてその人は叫んだ。
 もしその身が罪によって汚れているというのならば、そなたは戦わねばならぬ。戦いによって罪を背負い、そして罪を償うのだ、と。
 ──戦えというのか。
 存在意義を見失うな。そなたはそうして生まれた。生まれたからにはその魂、粗末にすることはならん。
 少女は宇宙を見上げる。
 百年の時を超え訪れた現代、その中に身を投じる恐ろしさを噛み締めながら、どうすべきか答えを求める。
 だが、空は何も答えず。
 動けぬ身体は動けぬままに。
 ただ星だけが瞬いていた。





「──ずっと見てたよ」

 ある時、ある日、ある場所で。
 ただただ勝てぬことを悔やみ、自分の周りの人達を守れる弱き力を嘆き。
 今まさに殺されようとしたところで――少年は九十九神の少女と出逢い、力を手に入れることとなる。

 ──この力、汝に授けよう。

 自分を殺そうとした圧倒的な悪と殺意、それと同じ力を授けようと少女は囁いた。
 神々の戦いから今いる場所を守るべく、少年は力を手に入れる決意をした。
 おそらくは自分自身、血を流し、苦痛と後悔に苛まれる未来があるだろうことを想像しながら。
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